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自己幹細胞移植による血管再生療法

国立循環器病センター研究所循環動態機能部脳循環研究室室長  田口明彦 (文献)

― 難治性Buerger病に対する新しい治療法です ― 

はじめに

Buerger病の治療の第一ステップは禁煙することです。喫煙は病状の進行を促進し病気を悪化させます。禁煙と同時にお薬の内服、あるいは点滴治療などの内科的治療が行われます。次にそのような内科的治療でも病気の進行を止めることができない患者さんに対しては血管バイパス手術、交感神経切除等の外科的治療が行われます。しかし、これらの内科、外科治療でも病気が進行し、激しい痛みや皮膚の潰瘍、壊死などの重篤な症状で苦しむ症例もあり、指や手足の切断を余儀なくされる場合があります。そのような患者さんに対して痛みの軽減、手指、足の切断防止を目的とした”自己幹細胞移植による血管再生療法” が全国多数の施設で進められており、成果を上げています。

1. 幹細胞とは

血管は様々な種類の細胞により構成されていますが、古くなった細胞が取り除かれ、新しい細胞にどんどん置き換わることにより維持されています。基本的に新しい細胞は、その付近の細胞が細胞分裂により増えることによって生み出されることが多いですが、それ以外にも、”幹細胞” と呼ばれている、いろいろな細胞に分化することのできる細胞からも血管を構成する細胞を作ることが可能です。実際ヒトの体の中でもこの”幹細胞” を使った研究が進められ、ヒトでも自分の幹細胞を使って血管がうまく作れるようになってきました。

2. 骨髄の幹細胞とは

骨の中には骨髄といわれる部分がありここには様々な細胞があります。骨髄の細胞は主に赤血球、 白血球、血小板等の血液細胞を作りますが、骨髄の細胞の中にはその他にもいろいろな能力を持った細胞があります。その中で

  1. 骨髄幹細胞と呼ばれる細胞は普通の骨髄細胞よりもより分化の程度が低いため、いろんな細胞に変 化できる性質を持っています。この骨髄幹細胞は白血球などに変化することもできますし、また、血流の不足している筋肉などでは血管内皮細胞と呼ばれる血管の一番内側の細胞にも変化する能力も持っています。Buerger病の患者さんの筋肉に注射された骨髄幹細胞は血管の内皮細胞になり、新しく血管を作ると考えられています。
  2. 血管の枠組みを作ることもできる細胞も含まれておりこれらの細胞は血管の支持細胞になると考えられています。
  3. また、ホルモンの一種である血管増殖因子を分泌する裁縫も含まれており、このような細胞から分泌される血管増殖因子により、血管新生が促進されます。

このように骨髄の中には様々な細胞が含まれており、それらが共同して血流の不足している手足の 筋肉内で血管を新しく作ると考えています。

3. 血液中の幹細胞とは

骨髄は血管が豊富な組織であり、その中の幹細胞は血液中にも出て行きます。これらの幹細胞は細 胞の表面に”CD34”と呼ばれる目的がでていることが多く、その目印を使って、血液中の幹細胞を集め てくることが可能です。

4.血管再生療法とは

Buerger病は手足の血管が狭くなったり、詰まることにより起こる病気です。(その原因は不明です)。 血管の狭窄、閉塞により、その場所より先の手足には十分な血流が供給されず、酸素や栄養などが足 りないために痛みや潰瘍などの症状が起こります。内服薬や点滴治療は血管拡張および血管閉塞防止 も目的で行われますが、それだけでは十分な効果が得られない場合がしばしばあります。また、バイ パス手術では狭くなった部分を迂回するように狭窄部の前と後ろの血管を自分の静脈などを使いつな ぎますが、Buerger病では手術できないショウレイ、手術後にバイパス血管も閉塞することなどがあ り、効果は不十分なこともあります。
そのような患者さんに対して、自分の骨髄や血液中の幹細胞を使った血管再生療法が始められてい ます。血管再生療法では血管を作るもととなる細胞(幹細胞)を自分の骨髄や血液中から採取し、その 細胞を血管が必要な部位に注射します。肝細胞を血管に分化させることにより、必要な場所に新しく 血管を作ることができます。そして新しく血管ができることにより、その部位での血の流れが改善し、 虚血性潰瘍や激しい疼痛などの症状も軽減、消失します。

5.実際の治療手順(図1)

私たちの病院では骨髄を使った血管再生療法を行っていますので、ここでは自己骨髄幹細胞を用い た血管再生療法の実際の手順を紹介します。

  1. 手術室において全身麻酔下で骨髄細胞を採取します。この方法は通常の骨髄移植の時に行われる方法と同じであり、日本では年間1000症例以上実施されています。骨髄の採取量は800ml程度が標準で、採取にかかる時間は2時間程度です。
  2. 骨髄細胞の中で血管等になる細胞を分離します。分離に用いられる機械は通常の骨髄移植に用いられるのと同じ機械を用い、血管新生に関係のない赤血球等の細胞を除外し、必要な細胞を取り出します。分離にかかる時間は2時間程度です。
  3. 分離した細胞を患肢の筋肉に注射します。上腕や下肢のヒラメ筋、腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)に は一個所につき0.5mlずつ、手や足の裏、甲には0.2mlずつ筋肉の中に注射を行います。合計で数 十箇所に注射を行いますが、痛みの軽減のため全身麻酔下で行うこともあります。この注射にかかる 時間は1時間程度です。実際に要する時間はその他の時間を合計しても6時間程度です。

(図1)

図1

  1. 骨髄採取は全身麻酔下で行います
  2. 両側腸骨(腰の骨)より骨髄を500-800ml採取します
  3. 機械で単核球(血管になる細胞)だけを分離します
  4. 血管が必要とされる部分に注射します

6.治療効果は

骨髄幹細胞や支持細胞、血管増殖因子分泌細胞等が共同して虚血部位で血管新生が起こります。移 植後には血流が改善し、痛みの軽減や消失、潰瘍の治癒、および4それに伴ない手足の切断を免れる ことが多い、と報告されています。
自己幹細胞による血管新生療法は治療法としては新しいため、全ての患者さんに十分な効果がある かどうかは明らかではありません。ただ、慢性動脈閉塞性の患者さんに比べてBuerger病の患者さん では、症状の改善が良好であることが多いと報告されています。

7.危険性は

  1. 骨髄肝細胞や血液中の幹細胞を静脈注射することは白血球等の血液病の治療で以前より行われて いますが、特に有害な副作用も報告されていません。
  2. 血管だけでなく脂肪、軟骨、膠原線維などを作る能力もあります。動物実験やこれまでの血管再生治療後の患者さんでは血管以外のものは見つかっておりませんが、長期間後には何らかの異常が起こる可能性もあります。
  3. 他人からの細胞や臓器の移植と違い、自分自身の細胞を自分の手足に移植するため、拒否反応はないと考えられています。
  4. その他には骨髄採取の際の全身麻酔や血液中の幹細胞採取に伴う合併症の可能性、および足(またはて)への注射に伴う痛み、浮腫および発赤等があります。 新しい治療法のため今後予期せぬ重篤な副作用が出現する可能性は否定できませんが、現在のと ころ、自己幹細胞移植に伴う問題となるような副作用は報告されていません。

8.どこの病院で治療が受けられるか

国立循環器病センターをはじめ、多くの大学病院などでも自己幹細胞移植による血管再生療法が行 われています。治療にかかる費用は、各施設により異なります。

9.実際の症例は

-国立大阪南病院(現:国立病院機構大阪南医療センター)での症例-

病名 Buerger病
37歳 男性

入院までの経過

平成元年頃より虚血性潰瘍のために手や足の指の切断を繰り返しており、薬物利を療法は無効であった。平成12年12月頃より左手の親指の感染が治らず、その部位より排膿していた。また、右手の第三指、第五指にも6ヶ月以上続く難治性の虚血性潰瘍があった。

入院後の経過

入院後、他の動脈閉塞性疾患との鑑別を行いBuerger病と確定診断。また、血管造影検査などの結果よりバイパス手術とうの手術適応はなく、院外委員を含めた症例検討委員会にて血管新生療法の適応症例であると判定。平成13年7月に骨髄細胞移植による血管新生療法を実施。
骨髄移植後5日目より、まず前腕部の皮膚の色が虚血を示す暗赤色より自然な肌色に変化があり、それに伴もない6ヶ月以上も治らなかった虚血性潰瘍も縮小を始めた。移植後3週間で潰瘍が消失した。まて、移植前は箸などを長く使うと疼痛が出現したが、移植後は痛みが起こらなくなった。また、手や指の血流を反映する経皮的酸素分圧測定や皮膚潅流圧の測定値でも血流の著明に改善しており、血管造影上も血行の改善を認めている。
移植4ヶ月目の現在では潰瘍のあった場所も完全な皮膚が張っており、痛みなどの症状も全く消失している。(図2)

(図2)

図2

  1. 骨髄移植前:難治性の潰瘍が有りました
  2. 骨髄移植16週後:潰瘍は完全に消失しています
  3. D.骨髄移植前(C) に比べて移植後(D)は血管の増加が見られます

まとめ

自己骨髄細胞移植による血管新生療法は平成12年より始められた新しい治療法です。そのためにまだ大規模な解析がなされていませんが、各施設からの報告では良好な経過をとる症例が多いようです。今後は自己幹細胞移植による血管再生療法が、難治性Buerger病治療の標準的な治療法になると考えています。

―痛みを軽減し、患肢の切断を防ぐ治療法です―