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その他の新しい治療法-炭酸浴による血流改善-

国立循環器病センター 研究所循環動態機能部脳循環研究室室長 田口明彦 (文献)

― 炭酸浴療法による血流改善 ―

はじめに

本書で取り上げたように、バージャー病患者さんに対して、幹細胞移植や遺伝治療など新しい治療法が、ここ数年の間に続々と臨床応用され効果を挙げつつあります。それと共に、最近炭酸浴療法による治療が進められており、難治性の潰瘍の治療等において効果を挙げていますので、本項では炭酸浴療法について詳しく説明します。

自己幹細胞移植による血管再生療法や遺伝子治療は、まさに世界の最先端を行く画期的な治療法ですが、炭酸浴療法による治療法はヨーロッパでは非常に古い歴史を持つ治療法であるといえます。炭酸泉とはお湯に炭酸ガスの溶け込んだ温泉のことを言います。日本にある温泉は炭酸ガスの濃度が高くないため、炭酸浴として用いることはほとんどできませんでしたが、ヨーロッパではローマ時代でも既に炭酸泉が健康に役立つことが知られており、療養目的の炭酸泉浴が行われていました。現在でもイタリアやドイツでは天然の炭酸泉を使った治療法が行われており、特にドイツでは国土全域に炭酸泉が湧き出しているため、国民の多くがレジャーや治療に炭酸浴を利用しています。日本にも数ヶ所に天然炭酸泉があり、なかでも大分県の長湯温泉は高濃度の炭酸泉が利用できますが、一般的に炭酸ガスは高温のお湯には溶けにくいので日本のような湯温の高い温泉では高濃度に炭酸ガスが溶け込んでいるところは稀です。そのため、日本では近年まで、炭酸浴による治療は行われてきませんでしたが、最近高濃度の炭酸泉を人工的に作る技術が開発され、日本においても容易に炭酸泉を利用する事が可能になりました。

1.人工炭酸浴による足浴で血流が改善します。

炭酸 (入浴剤やサイダーなどにも含まれる、あの炭酸です) には血管を拡張し、血流を良くするという作用がよく知られています。炭酸浴ではこの生理的な作用を応用していますので、体に優しく自然に血流を増やすことができます。炭酸泉に手足をつけると炭酸泉に浸かっている皮膚に炭酸ガスの気泡がたくさん付着し、約5分から10分程度で、入浴した部分の皮膚が真っ赤に紅潮します。この紅潮は天然の炭酸泉と同様に炭酸ガスの作用により血のめぐりがよくなったために起こります。バージャー病の患者さんも炭酸浴により炭酸ガスが皮膚から吸収されると、皮膚の血管が開いて多くの血駅が流れるようになりますので、特に皮膚の虚血性潰瘍に効果が高いようです。実際の治療では、炭酸ガス濃度が1000PPm以上という非常に高い濃度の炭酸水の温度を37度ぐらいに調節し、潰瘍のある手足を15分程度浸けておきます<図1>。するとその場所での血流が改善し、血液が良く流れることにより潰瘍等の皮膚の病変に効果があります。皮膚の紅葉は炭酸水からあがると5分程度で消えますが、この炭酸泉の効果は入浴中だけではなく、その後も1日程度は持続すると考えられています。

2.人工炭酸浴の治療効果

手足の血流の改善を目的とした炭酸浴は、バージャー病の患者さんだけではなく、動脈硬化のために足の血管がつまる閉塞性動脈硬化症という病気の患者さんや血液透析中の患者さんなど広く使われ始めています。炭酸は皮膚から吸収し皮膚血流を増やす働きが非常に強いため、特に皮膚に潰瘍がある患者さんには効果が高いのが特徴です。最近私たちの病院に入院されたバージャー病の患者さんも、足先の潰瘍が長期間治らずに一度は指の切断も考えておられましたが、炭酸浴を1日2回、2週間程度続けたことにより潰瘍が治癒し無事退院されました。また、他の病気でも炭酸浴により血流が改善し、症状が良くなった症例が多数報告されています。

炭酸泉は末梢の血管を広げることに効果が高い治療法であり、通常は足(あるいは手)を炭酸泉に浸すだけです。治療自体は温泉に浸かるようにゆったりとした気分で受けることかできますので、症状が軽いうちからでも気軽に治療が受けられます。また、非常に簡単な原理でヨーロッパでは古くから行われてきた治療法ですので、特に考えなければならない副作用もありません。目に見えるほどに皮膚の血流も増加しますので、皮膚の潰瘍などには良く効くことが多いのも特徴です。
この治療法の短所として挙げられる点は、①毎日続けても効果が現れるまでには1週間から1ヵ月程度かかること、②現在のところあまり多くの病院には普及していないこと、③大きな血管自体の血流はあまり増えないためろ、間欠性跛行(歩行時の足の痛み)等の病状には改善効果が弱い、等があります。

3.どこで炭酸浴治療がうけられるか

はじめにも述べましたように日本には高濃度に炭酸ガスが溶け込んでいると天然温泉は稀です。そのため、病院などで治療を受けられるのが一般的で、除々に一般の病院にも普及して来ています。また、この治療法は血液透析患者さんの皮膚潰瘍治療にも使われ、効果を挙げてきていますので、血液透析を行っている病院では積極的に導入するところが増えてきています。炭酸浴による治療法を希望される方は大学病院などの大病院と共に血液透析を行っている病院や診療所に問い合わせてみると良いでしょう。

他の方法としては炭酸ガス入浴剤として市販されているものを使って炭酸泉を作ることもできますが、入浴剤によってできた炭酸泉の炭酸ガスの濃度は理想的な濃度の10分の1程度にしかなりませんので効果はあまり強くないようです。家庭用に高濃度の人工炭酸泉を作る機械も市販されており、機械の取り扱いもごく簡単ですので、この”人工炭酸泉製造装置”を手に入れることができれば、毎日自宅で療養することも可能で、最近新しい製品も登場しているようです。

図1 炭酸浴治療法

図1 炭酸浴治療法
炭酸水の温度を37度ぐらいに調整し、
潰瘍のある手足を15分程度浸けるだけです。