トップページ >> 事業活動 >> ビュルガー病(バージャー病) 閉塞性血栓性血管炎 (TAO)
事業活動

ビュルガー病(バージャー病) 閉塞性血栓性血管炎 (TAO)

難治性血管炎に関する調査研究班バージャー病診断と治療指針(厚生労働省)より転載(文献)

Ⅰ 概要

1 定義

閉塞性血栓性血管炎Thromboangitis obliterans.TAOとも呼ばれ、四肢の主幹動脈の閉塞性の血管全層炎をきたす疾患である。特に下肢動脈に好発して、虚血症状として間欠性跛行や安静時疼痛、虚血性皮膚潰瘍、壊疽(特発性脱疽とも呼ばれる) をきたす。また、しばしば表在静脈にも炎症をきたし(遊走性静脈炎)。

2 疫学

年間の全国推計患者数は約10.000人(95%信頼区間8.400~12.000)であり、男女比は9.7対1と圧倒的に男性に多い。推定発症年齢は男女とも30歳代から40歳代が多いが、現在の患者の中心は45歳から55歳であり、患者の高齢化が示唆される。(1993~1995年調査)。

3 病因

特定のHLA (humanleukocyteantigen) とビュルガー病発症の関連性が強く疑われており、ある遺伝性素因に何らかの刺激が加わると発症するとの説が有力であるが、正確な原因は未だ不明である。発症には喫煙が強く関与しており、喫煙による血管攣縮が誘因になると考えられている。最近の疫学調査では患者の9.3%に明らかな喫煙歴を認め、間接喫煙を含めるとほぼ全例が喫煙と関係があると考えられている。

4 病状

四肢主幹動脈に多発性の分節的閉塞をきたすため、動脈閉塞による末梢の虚血の程度に応じた症状を認める。虚血が軽度のときは冷感やしびれ感、寒冷暴露時のレイノー現象を認め、高度となるに従い間欠性跛行や安静時疼痛が出現し、虚血が最も高度となると指趾に潰瘍や壊死を形成して、特発性脱疽と呼ばれる状態となる。また爪の発育不全や皮膚の硬化、胼胝を伴い、わずかな刺激で難治性潰瘍を形成する。下肢の阻血性疾患として、最も頻度の高い閉塞性動脈硬化症と同様な症状であるため、鑑別診断に注意を要する。

5 治療

間接喫煙を含め、禁煙を厳守させることが基本であり、このため適切な禁煙指導を行う必要がある。また患肢の保温、保護に努めて靴ずれなどの外傷をさけ、歩行訓練や運動療法を基本的な治療として行う。

治療は局所療法、薬物療法、交感神経節ブロック・切除術及び血行再建術の4つに大きく分けられる。治療法の選択は、個々の症例の重症度に応じて対応される。指趾に潰瘍形成や壊死を認める場合には、厳重な創の保護を主体とする局所療法が大切である。薬物療法は抗血小板製剤とプロスタグランジン製剤の投与が主体である。急性増悪例や重症例に対しては投与期間を限定して、プロスタグランジン製剤の静脈内投与が行われる。

交感神経節切除術は有効な治療法であるが、現在外科手術はほとんど行われず、薬物による交感神経節ブロックが一般化した。潰瘍形成と安静時疼痛を訴える症例で、かつ薬剤治療に抵抗性の症例については、外科的血行再建術の適応を考慮する。バイパス手術の適応を決めるに際しては、血管造影所見の診断が必須であるので血管外科専門医の関与が必要である。

6 予後

生命予後に関しては閉塞性動脈硬化症と異なり、心、脳、大血管病変を合併することはないため良好であるが、指趾の切断を必要とすることもあり、就労年代の男性のQOL (qualiy of life ) を著しく脅かすことも少なくない。

Ⅱ 診断

1 認定基準

表1 ビュルガー病の認定基準

1 自覚症状
  1. 四肢の冷感、しびれ感、レイノー現象
  2. 間欠性跛行
  3. 指趾の安静時疼痛
  4. 指趾の潰瘍、壊死、(特発性脱疽)
  5. 遊走性静脈炎 (皮下静脈の発赤)、硬結、疼痛など)
2 理学所見
  1. 四肢、指趾の皮膚温の低下、(サーモグラフィーによる皮膚温度測定、近赤外線分光計による皮膚・組織酸素代謝の測定)
  2. 末梢動脈拍動の減弱、消失
  3. 足関節圧の低下 (ドプラ血流計にて測定)
3 血液生化学検査所見

ビュルガー病に特徴的検査所見はない

4 画像所見
  1. 四肢末梢主幹動脈の多発性分節的閉塞
  2. 二次血栓の延長により慢性閉塞の像を示す
  3. 虫食い像、石炭沈着などの動脈硬化症変化は認めない
  4. 閉塞は途絶状、先細り状閉塞となる
  5. 側副血行路として、ブリッジ条あるいはコイル状側副血行路がみられる
5 鑑別診断
  1. 閉塞性動脈硬化症
  2. 外傷性動脈血栓症
  3. 膝窩動脈補足症候群
  4. 膝窩動脈外膜嚢腫
  5. SLEの閉塞性血管病変
  6. 強皮症の閉塞性血管炎病変
  7. 血管ベーチット
6 診断の判定
  1. 喫煙歴を有し、上記の自覚症状・理学所見・画像所見を認める。
  2. 動脈硬化症や糖尿病の合併症は原則として認めない。
  3. 女性例、非喫煙者、50歳代以上の症例では、鑑別診断をより厳密に行う。
  4. 上記の鑑別診断で該当疾患を否定する。

以上の項目を満たす場合、ビュルガー病と判断する。確定診断には血管造影所見が重要である。

2 QOLを主に考慮したビュルガー病の重症度分類

ビュルガー病は慢性疾患であると同時に難治性疾患であり、重症度によって患者のQOLに及ぼす影響は大きい。このような点を考慮して、厚生省難治性血管炎分科会では1998年にQOLの面から新しい重症度分類を提唱したので、参考までに記載する。

表2 ビュルガー病の重症度分類

1度

患肢皮膚温の低下、しびれ、冷感、皮膚色調変化 (蒼白、虚血性紅潮など) を呈する患者であるが、禁煙を含む日常のケア、又は薬物療法などで、社会生活・日常生活に支障のないもの。

2度

上記の症状と同時に間欠性跂行 (主として足底筋群、足部、下腿筋) を有する患者が薬物療法などで、社会生活・日常生活上の障害が許容範囲にあるもの)。

3度

指趾の色調変化 (蒼白、チアノーゼ) と限局性の小潰瘍や壊死又は3度以上の間欠性跂行を伴う患者。通常の保存的療法のみでは、社会生活に許容範囲を超える支障があり、外科療法の相対的適応となる。

4度

指趾の潰瘍形成により疼痛 (安静時疼痛) が強く、社会生活、日常生活に著しく支障をきたす。薬物療法は相対的適応となる。したがって入院加療を要することもある。

5度

激しい安静時疼痛とともに、壊死、潰瘍が増悪し、入院加療にて強力な内科的、外科的治療を必要とするもの。(入院加療:点滴、鎮痛、包帯交換、外科的処置など)

この分類は実際的であり、重症度と治療内容との相関を明らかにしている点で日常臨床上役に立つ分類だと考えている。

Ⅲ 治療指針

1 治療の原則

  1. 禁煙の励行。間接喫煙 (家庭、職場、乗り物、遊戯場なと) も極力避ける。
  2. 患肢ならびに全身の保温に努め、寒冷暴露を避ける。
  3. 患肢の清潔保持に努め、外傷 (靴ずれなど) を避ける。
  4. 規則正しい歩行訓練、運動療法を行う。

2 一次医療機関に対する治療指針

  1. 軽快者例では経口薬物療法を行い、経過を観察する。
    1. 症状の安定、改善が得られれば、経口薬物療法を継続する
    2. 症状が増悪する場合には二次・三次医療機関を受診させる。
  2. 重症例は二次・三次医療機関を受診させる。

3 二次・三次医療機関に対する治療指針

  1. 軽症例、経口薬物療法で改善がみられる例は、引き続き薬物療法を継続する。
  2. 症状増悪例、重症例では原則として、入院とする。
    1. 経口薬物療法と併用して注謝療法による治療を行う。
    2. 治療と並行して血管造影検査を行い、鑑別診断を行う。
    3. 重症例で薬物療法が無効な症例は、血行再建術や交感神経節切除術、あるいは神経節ロック。指趾切断などの適応を決定する。

4 難治性バージャー病に対する新しい治療法

  1. 今までの治療法では良くならなかった難治性の潰瘍が、自分の骨髄細胞等を用いた血管再生療法で、軽快治癒した症例が多数報告されています。
  2. 現在、難治性バージャー病に対する新しい治療法として、大学病院や国立循環器病センターなどの基幹病院で積極的に進められています。

【 文献 】

  1. Buerger L:Thromboangiitis oblierance;A study of the vascular lesions leading to presenile
    spontaneous gangren. Am j med Sci 136:567,1908
  2. 大野良之ほか:全国疫学調査による難病受給者数の推計.日本医事新法3843:25.1997
  3. 佐久間まことほか:バージャー病治療の現状. 平成6年度全国疫学調査の分析結果から.免疫疾患調査研究班平成8年度報告書(厚生省). 22. 1997
  4. 松尾汎ほか:バージャー病患者の長期予後のQuality.of life.に関する検討.脈管学37:883.1997
  5. 善甫宣哉ほか:慢性動脈閉塞性の薬物療法. 臨床外科47:169.1992
  6. 久保良彦ほか:抗血小板療法.日常診断と血液 2:664、1992
  7. 中島伸之ほか:心血管病変再発予防における抗血小板薬、抗凝固薬の効果に関する研究:
    厚生省循環器病委託研究による研究報告書。41. 1996
  8. Nakajima N: The change in concept and surgical treatment on Buerger`s disease-personal
    expericnie and review. Cardiology 66 (Suppl.1): 273. 1998
  9. 石橋恵二: 神経ブロックの可能性.新薬と治療 48: 16. 1998
  10. 上山武史: 交換神経切除.外科 57: 311. 1995
  11. 佐久間まことほか: バージャー病の血行再建の遠隔成績.免疫疾患調査研究班
    平成8年度報告書(厚生省)、143、1997
  12. Damme H V. et al: Thromboangiitis obliterance (Buerger`s dis ease):Still a limb threatening disease. Act Chir Belg.97: 229. 1997