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バージャー病に関する最近の知見とバイパス術の役割(文献)

大阪労災病院 末梢血管外科部長
中村隆 先生

バージャー病は血管の組織学的所見から閉塞性血栓血管炎と訳されていますが、血栓が原因か、血管炎が原因かについての結論は出ていません。バージャー病の臨床的診断基準として塩野谷基準が知られています。(1)50歳未満、(2)喫煙者、(3)下腿動脈閉塞がある、(4)上肢動脈閉塞の存在、または遊走性静脈炎の存在または既往がある、(5)喫煙以外の動脈硬化危険因子(高血圧、糖尿病、高脂血症)がない。この5つの項目を満たせばバージャー病と確定診断されます。厚生労働省診断基準にも記載されていますが、女性例・非喫煙者・50歳代以上の症例では鑑別診断(似たような症状を呈する疾患としては(1)閉塞性動脈硬化症(2)外傷性動脈血栓症(3)膝窩動脈補掟症候群(4)膝窩動脈外膜嚢腫(5)全身性エリテマトーデスの閉塞性血管病変(6)強皮症の閉塞性血管病変(7)血管ベーチェット)をより厳密に行う必要があります。言い換えると、下腿動脈病変を伴う閉塞性動脈硬化症や、膠原病による血管炎がバージャー病として診断・治療されているケースもあると思われます。

さて、1970年後半からバージャー病と診断される患者さんの数は減少し、初発症状も軽度になっていると思われます(米国では同様の現象が1950年代から見られています)。これらの原因も明らかではありませんが、近年バージャー病と歯周病との関連が注目されています。バージャー病の患者さんの下肢閉塞動脈において歯周病菌が高率に存在することが示されました。歯周病菌は血小板内に移動し、リンパ管から静脈内に入ります。歯周病菌により血小板が凝集塊を形成し、四肢末梢動脈閉塞や、静脈炎を起こすと考えられています。喫煙で歯周病が悪化すること、口腔内衛生が向上している国ではバージャー病が少ないないという事実はすでに知られており、日本でも口腔内衛生の向上・喫煙率の低下に伴いバージャー病が減少しているものと考えられます。言い換えると、バージャー病の治療において禁煙は勿論のこと、口腔内衛生を保つことが重要であると言えるでしょう。歯周病はバージャー病以外にも様々な循環器疾患との関連が報告されています。但し、歯周病があっても必ずしもバージャー病を発症するわけではないので、バージャー病の発症には他の因子も関与していると考えられます。

バージャー病の治療は一にも二にも禁煙ですが、その他に(1)薬物治療(2)運動療法(3)血行再建術(4)交感神経切除(5)血管再生治療といったものがあります。多くの場合は禁煙と薬物治療で症状はかなり改善しますが、禁煙・薬物療法などに反応しない場合に考慮される血行再建術について解説します。

足の安静時疼痛・虚血性難治性潰瘍を総称し重症虚血肢と言われています。放っておくと下肢切断の危険があるので適応があれば血行再建術が行われます。重症虚血肢の多くは閉塞性動脈硬化症によるもので、高血圧・糖尿病・高脂血症・慢性腎臓病などを合併しています。このような動脈硬化に伴う下肢動脈の閉塞は骨盤・大腿・下腿動脈に見られますが、足関節付近から末梢の血管は開存していることが多いのです。従って、足関節周辺の開存している血管へのバイパス術は有用な治療手段であり、その長期成績も良好であることが示されています(図1)。
下肢血管造影検査 閉塞性動脈硬化症

一方で、バージャー病では膝下あるいは足関節より末梢の病変が中心であるため、末梢側の吻合が技術的に困難(不可能)で、吻合部より末梢の動脈が細くバイパスの長期開存が期待できない場合が多くあります(図2)。また、バイパス術では主に大伏在静脈をグラフトとして使用しますが、バージャー病では静脈炎の合併により、静脈の性状が悪い、周囲との癒着が強く静脈の採取に難渋するといった問題もあります。従って、手術適応と判断される症例は全体の20%に満たないとされています。バージャー病の患者さんは比較的若年者ですし、その日常生活活動レベルを保つために積極的にバイパス術をすべきだとの意見もありました。実際、手術適応が適切であればバイパス術の効果は絶大で、開存率も閉塞性動脈硬化症と遜色ないことが報告されています。しかしながら、先ほども述べたように、患者数・重症例の減少からバイパス術が行われることはほとんど無くなり、最近ではバージャー病に対するバイパス術の成績に関する報告(論文)はほとんどありません。一方で、バージャー病に対する様々な血管新生療法の有用性に関する報告は増加しています(閉塞性動脈硬化症に対する治療効果はあまりないようです)。このような背景から今後はバージャー病に対するバイパス術の役割はさらに限定的なものになってゆくと思われます。
下肢血管造影検査 バージャー病

近年、青壮年時にバージャー病を診断された患者さんが高血圧・糖尿病などを発症し、高齢化とともに閉塞性動脈硬化症による虚血症状を呈している例が増えています。このよう場合には閉塞性動脈硬化症に対する治療(生活習慣改善・薬物治療・カテーテル治療・バイパス術など)が行われることになります。

以上をまとめますと、バージャー病とは喫煙歴があり、閉塞性動脈硬化症などを発症する危険因子を持たない青壮年の四肢末梢動脈閉塞を生じる血管炎です。治療はあくまでも禁煙が第一ですが、歯周病との関連があるので口腔内を清潔に保つことも重要です。治療は薬物治療を加えた保存療法が中心であり、外科的血行再建術の適応となる症例は極めて限定的です。血管新生療法の有用性が報告されており、重症例に対して普及してゆくものと考えられます。